「生野越え」と通称される勾配区間は播但線の長谷ー生野ー新井のことで、長谷側からの下り列車、新井側からの上り列車の煙が期待されるところだった。勾配のサミットが生野駅の新井側にあるのでこの駅にいれば労せず上下列車の奮闘を撮影できるとあって、ファンの間では有名になっていた。ただ多くの貨物列車にはC57の前DD54などの補機が付くので、当然狙うのは旅客列車が中心になっていた。(もっともそのDD54も短命な機関車であり、いまとなっては貴重な記録になったのだが当時もファンの心情はそこまで及ぶものではなかった)
生野駅ではまず停車中の上り貨物列車を撮影(貨690レ)。生野越えをしたきたわけなので当然ながら先頭にはDD54の補機が付いていた。その次位にいたのがC5711[豊]でかつては北九州で特急「かもめ」牽引専用機として特別装備を施されていたカマで特に門鉄デフ(小倉工場式切り取りデフ)に取り付けられた「波頭にかもめの羽」はファンの憧れであった。その他にも各所のステンレス帯を巻くなどの装飾が記録に残っている。本州に転属後はそれも消され、集煙装置や重油タンクの増設など形態は損なわれたたがそれでも当時はこの播但線の有名機関車であった。初めて現車を見たがその風格は依然として健在で、キャブには楕円形の「明かり取り窓」も残っていた。
その後和田山方に移動し貨691レをスナップし、その発車を撮影した。さきほど福崎で見た列車なので牽引は同じC57156であった。生野トンネルへ向かう直前までが勾配なので勢い良く発車していった。
生野駅は勾配などの関係で右側通行になっており、下り列車も右側へ進行してくる。さらにかつての終着駅の名残を思わせる配線があり、貨物列車の一部はその引き込み線跡に突っ込んで停車する。
このC5793号機は播但線仕様の集煙装置やA型重油併燃装置の装備の他に、煙室前面が角形に改造されていて少しスタイルを崩してはいたが、私にとってはこの停車中に運転室に入れていただき記念撮影などをした思いで深い機関車だった。廃車後も生野で静態保存されたのだが近年老朽化のため解体されてしまったのが残念だ。(一部の部品は保存されている)
この停車中の列車がちょうどホームと同じ高さからながめられるというところで、かつてここがホームであったことを思わせる