小海線1971年 その1  昭和46年3月

夜明け間近の清里駅で発車を待つC56149

第三回目はC56に会った冬の小海線です。

春休み

年末(45年)の木曽路訪問から年が改まって昭和46年(1971)になった。三学期も終りに近付き間もなく春休みとなる頃、また汽車に会いたくなってしまった。とはいえ条件は前回と同じく遠出などの贅沢はさせてもらえないが撮影旅行に行かせて貰えるだけ良しとせねばならず、今回も夜行日帰りで友人W君との旅である。 行き先は「C56の高原列車」の小海線とした。東京に近いSL走行線区ではやはり訪問しておきたい路線であったが働く機関車は4両のみで本数も多くなく、できるだけたくさん蒸機に会いたいと思う私たちにとってはちょっと物足りない気持ちでいた。無論じっくり取り組めば四季折々の美しい風景を行くC56に魅せられたのではあろうが・・・。そこで計画ではシーズンになると運転していたC56牽引の臨時旅客列車に目を付けまずはそれに乗車、それからできれば走行写真を撮ろうということにした。小海線といえば夏の「八ヶ岳高原号」(のちに「八ヶ岳51号」などとも称した)が有名であったが、冬にも運転された時期もあり「八ヶ岳スケート号」として野辺山まで同じようにC56が牽引していた。

新宿00:20ー◆9431レ「霧ヶ峰スキー・八ヶ岳スケート号」岡谷・野辺山行→小淵沢04:29

昭和46年3月14日は日曜であり、日付けが変わってまもなく新宿を後にする冬の臨時快速列車に私たちは席をとった。0時20分発の「霧ヶ峰スキー・八ヶ岳スケート号」岡谷・野辺山行きである。霧ヶ峰のスキーは上諏訪・下諏訪などが入口の駅でもあり、乗降も多い岡谷までとするのもうなづけるが、「八ヶ岳」のスケートはちょっと不思議な感じがした。冬に高原号では似合わないためだろうか。小海線沿線でのスケート好適地は小海や松原湖といったところがあるが、それにしてもこの列車は夏と同じく野辺山までしかいかない。清里あたりでスケートが出来たのだろうか?とも考えたが、いずれにしても冬の八ヶ岳周辺の登山やハイカーたちの需要もあって設定された列車であるので愛称は霧ヶ峰に合わせたぐらいのものだったのだろう。実際車内はリュックを背負った人たちが多かったような記憶がある。

当時の中央本線の旅客はEF13だったと思うが、すでにEF64に変わっていたかもしれない。客車はもちろん旧型であったが御多分にもれずこの間の記憶も写真もほとんど残っていない。わずかに深夜に停車した大月駅のカットがあるだけで、次はもう午前4時半の小淵沢駅となっていた。

  
深夜の大月駅に停車中の9431レ

早暁の小淵沢にて

普通であればこのC56の牽く貴重な旅客列車を「小淵沢の大カーブ」で狙うのが定石であるし、事実この列車で行って切り離し作業中に撮影地点へ向かう事も無理ではなかったが、三月といってもまだ小淵沢では夜明けには程遠い時間であり寒そうな高原へ行く勇気もない、とにかく汽車に乗りたかった我々は「乗っている列車=スナップできる列車」という認識があったので、そのまま客車に居残り終点まで乗ることにした。それだけシャッターをたくさん切りたかったのかもしれない。いつのまにか「霧ヶ峰スキー」から切り離された3両の客車の前に待望のC56が連結され盛んに蒸気を上げている。外は冷気に包まれ吐く息も白いがこれから高原を目指して駆け上がる力をみなぎらせて発車を待つ姿に「会いに来て良かった!」との気持ちが湧いて来た。

C56が連結され発車を待つ9131レ

C56臨客に乗る

小淵沢04:29/55ー◆9131レ「八ヶ岳スケート号」野辺山行→野辺山06:09

午前4時55分、まだ暗い小淵沢をあとにC56149牽引の「八ヶ岳スキー号」はゆっくりと走り出した。しばらく中央本線と併行して右に折れ、大カーブといわれる築堤にさしかかる。さすがに夜も明けていないこの時期にここで列車を狙うファンはいなかったようだが、この時の車内の様子も周囲の風景もまったく覚えていない。昨夜来からの疲れと汽車にようやく乗れた安心感でうとうとしていたのかもしれない。それでも甲斐大泉・小泉と過ぎ、清里に着く頃にはようやく空も白みはじめ、なんとか手持ちでシャッターを切れるようになってきたので気も持ち直し、停車中のスナップから小海線の撮影が始まった。

朝もやの中を煙が流れる。
力強く煙をあげるC56149 清里駅
清里駅で小休止
まだ静かな趣があったホームの情景         「信号は?」機関士と駅員さんも発車待ち

清里でそれでも数人のハイカーたちを降ろし、何とか観光列車の役目を果たしつつ「八ヶ岳スケート号」は国鉄最高地点を目指して高度を上げ、C56も朝を迎えた高原に汽笛を響かせながら終着・野辺山駅に到着した。

国鉄最高地点 まだ当時は原野の中だった。

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